日本沿岸域に形態が違う2タイプのカマイルカ集団が生息していることを遺伝学的に立証【教授 鈴木美和】
研究成果のポイント
・水族館でよく見られるカマイルカ(Lagenorhynchus obliquidens)について,水族館スタッフや漁師の間では,昔から「日本沿岸には見た目(形態)が異なる2タイプがいる」と言われてきた.しかし,遺伝学的にその違いは証明されていなかった.我々は,全国の水族館のご協力を得て,国内で飼育されている野生由来のカマイルカ全個体と座礁した数個体から試料を採取し,一塩基多型(SNP)の情報をもとに集団構造を解析した.さらに,集団の分岐年代を推定した.
・解析の結果,日本沿岸域には遺伝的に明瞭に区別される2集団が存在することが明らかとなった.これらの集団間では遺伝的交流に乏しく,一方は日本海に限定的に,他方は太平洋から日本海に広く分布していることが示された.また,最終氷期に入った11万年前ほど前から日本海の環境が変動し,これに呼応するように2集団が分岐したと推測された.
・本研究の成果は,分類学的,生態学的な新知見をもたらすだけでなく,日本沿岸のカマイルカが日本海の環境変化に伴い分岐したことを示唆した点において進化学的にも意義がある.また,飼育下カマイルカの繁殖管理や,野生個体の保全においても極めて重要な情報を提供するものである.